「君の知り合いには、ちょっと変わった人が多いね」と、私の主人
が言ったのは結婚してまもなくだから、もう何十年も前になる。

趣味趣向は変わらないので、主人の眼に写る”ちょっと変わった人”
は、それからも増え続けているのだろうか。

2,3年ぶりにスーパーの前で会ったTさんは、その最たる一人だ。
Tさんは陶器屋だった。今もしているけれど、ほとんど店にいない。

山と田んぼを買い、米を作っている。田植え機でなく、縄を張って
順序良く植えるでもない。花咲爺さんのようにパーッと放り投げて
の田植えらしい。当然、農薬散布も草取りもしない農法である。

「今年は去年より沢山とれたよ!」と嬉しそうだ。


その昔、Tさんの店で何点か選ぶと、それらは全部Tさん作だった。

作家でもあったのだ。何の変哲も気取りもない作風だが、温かみと
強さとおおらかさを感じた。しかも安価だった。

人気は私に限ったことでなく、どこかの市議会議員は「次の窯から
出た時でよいから」と先にお金を送って来る。農業に専念したいけ
れど、「儲からない陶器も作らないといけない」とこぼしていた。


自然農法の話が盛り上がったところで、Tさんの奥さんがスーパー
から出てきて、自宅に招いてくださった。昔の民家を購入して改造
したというのでお邪魔することに。

Tさんとは美辞麗句のない核心のみの会話だから、用件は短時間で
終わる。奥さんは超まともな方なので、居心地が良く寛いだ。

帰りに、去年より味が良くなったとご満悦の新米をお裾分けしてく
れた。きっとTさんの陶器と同じ味わいだろうと想像出来る。

2010.1111