大雨を吸ってしっとりした木立に囲まれた、隠れ家での夏の茶事。

亭主役のツカモトさんは、着物も帯も明るいグレーの絽をお召しだ。
立ち居振る舞いが美しいので、透けるお召し物がウスバカゲロウの
羽を連想させて涼しげに見える。

『一献目』、正客から順々に亭主からの酌を受ける。たいてい「お
酒は飲めませんので」とか「クルマを運転しますので」とおっしゃ
って、朱盃を差し出してフリだけで済ませる方が多い。

しかし、運転はせず、型どおりに受ける78歳のサクさんと私の盃に
は程よくつがれた。注器は燗鍋と言うけれど、夏だから冷酒が入っ
ている。香り良く、すっきりと美味しい。

二度目の飯と汁、煮物腕が終わると『ニ献目』だ。すでにクラっと
しているのと、周りの目を意識して「半分ほどに」と亭主に伝える。
サクさんは黙って、飲み干されている。

焼物、小吸物、八寸をいただき『三献目』。酔ってきたので、盃の
「三分の一にしてください」と安全策をとる。


それから『千鳥の盃』に移る。今度は亭主も返盃を受ける。正客か
ら順々に繰り返すので、客が五人居ると亭主は五杯飲むことになる。

ツカモトさんは柔かにこなし、初炭手前に移られた。続いて縁高を
出し水屋へ去られた。あっぱれ。私はすっかり夢見心地で見ていた。


後炭手前のあとを拝見する。風炉中の枝炭が、そのままの形で灰に
なっている。微かに漂う香。花入の芙蓉の白が、浮いて見えた。


数年後には実力も度量もあるツカモトさんのように、老いては淡々
としたサクさんのようになりたいものだと、下界への帰り路に思う。

2013.0831