深まった秋の夜に、花火の音が聴こえてくるのは知っていた。それ
が、伊賀町の手力神社の奉納花火と知ったのは約10年前のことだ。

田んぼの続く道と山を幾度か越え、音のする方へクルマを走らせた。

山を上がり切って下り坂になった途端、そこには旗が立ち並び、綿
あめ屋・金魚すくい・饅頭屋・カステラ焼き・当てもん屋・たこ焼
き屋などの屋台が、境内へ続く道や沿道にびっしり並んでいた。

その郷愁に浸りたくて「秋の花火を見よう」と宣伝していた。長男
家族と出発する。GoogleMapsで調べると家から10分の距離だった。


「寒いからダウンを着ていくんだよ」は冗談でなく、森閑とした山
の空気が立ち込めている。広報が行き届いて、長男の嫁の親戚もい
た。屋台で食事しようと早めに出て来たらしい。ところが、屋台が
一軒も無いので申し訳ない気持ちになる。念のため、社務所で聞い
てみると「コロナで皆、廃業された」との返事だった。

午後八時、いよいよ始まる。4歳の孫は嬉しくて、雄叫びをあげた。

花火を奉納する集落の名前を放送で読み上げ、鎮守の森の後ろから
一発づつ順に打ち上げられる。打ち上げ拠点のあまりの近さに、小
さな花火も大きく感じるし、谷間に反響する音は驚くほど大きい。

花火の合間の手筒花火は珍しかった。忍者・伊賀衆の地だけあって、
1920年代まで集落で作っていたという。五人同時に放つ手筒花火は
迫力があった。伝統ある鄙びた集落は日本の原風景のようで素敵だ。

沿道に座って見ていたけれど、終わりに近づき、さらに近くへ移動
した。
尺玉花火がひらくと視界に入りきらない。音は耳だけでなく
身体に振動して伝わる。その連続のスペクタクルショーだった。

2023.1018