炭の"いこった"匂いが和室に広がって、秋が来たなと感じる。
本来、炉開きは11月上旬だが、茶事の練習に合わせて前倒しされた。
それは、稽古仲間のSさんとMさんが免状をもらわれたのを記念し
て来月に行われる、お披露目の茶事のためだ。
炉開きといえば茶道のお正月のようなもので、ぜんざいを供される
のが習わしだ。つきたての餅が香ばしく焼かれ、ふっくら炊いた小
豆が程よく甘く、とても美味しい。
練香を作る。先生が「練る時、入れるのはお酒でしたか?」と聞か
れた。念のためケータイで調べると「ハチミツ」とあった。皆が、
「便利な世ですね」と感嘆する。柔らかくなると香りが立った。
Sさんが初炭点前の練習をされた。パチパチと炭のはぜる音がする。
次に続き薄のお点前。私は当日正客なので、その練習をする。次客
の茶碗を取り次ぐ役目があるのは、覚えておかねばならない。
休憩時間に、先生が「先日、ルーブル美術館で窃盗がありましたね」
「たまたま、前日に友だちが行って写真を撮って来たのですよ」と、
盗まれる前の『ナポレオンの王冠』などの写真を、LINEの画面で見
せてくださった。動画なので、宝石が虹の輝きを放ってきらびやか
に光っている。盗んだのち、すぐに分解してばらまくから、もうこ
のような形で見ることはないだろう。
この夏に、『メトロポリタン美術館と警備員の私-世界中の<美>
が集まるこの場所で-』パトリック・ブリングリー著を読んだ。
大きな美術館ほど大勢の人が働いている。この作者や、働いている
人たちの心中は察するに余りあると思った。
2025.1028
