最澄が唐から持ち帰った茶の実を、大津で栽培した10年後、より産
地に適していると朝宮に蒔いたのが朝宮茶の始まりだ。大津の栽培
が途絶えたので、日本最古の茶業は信楽町朝宮となるそうだ。

なのに地続きの宇治茶のネームバリューに負けて下請けをしている。
加えて従事者の高齢化、後継者不足、需要低下の状況。しかし、気
炎を吐く若手が試行錯誤して、新しいブランドを立ち上げていた。

その生産農家さんたちの視察会に参加した。今、流行の和紅茶を店
で扱うので、勉強しておこうと思ったのだ。十数名が集う。


茶畑の中心まで歩いて、美谷茶園の武田さんの説明を聞く。

べにふうき・べにひかり・みなみさやか・いずみ・おくはるか・香
駿・さやまかおり・在来など多品種を栽培され、それぞれフローラ
ル、フルーティ、メンソール系、花香などの特徴があって驚いた。

同じ木の実でも翌年は同じ味にならないし、株単位でも味は別もの
らしい。同じ味にするには、挿し木しかないという不思議。また、
摘みとる時期や、発酵・深炒り・煎茶の加工法で様々な味になると
いう。緑茶・紅茶・烏龍茶が、同じ茶葉で出来るとは知らなかった。


三社の茶園の10種類のお茶をテイスティングする。

「在来」は、大昔のおばあちゃんちのお茶を思い出した。それは、
約70年前からの品種で無農薬で作られたものだった。渋みの残る緑
茶は敬遠されがちで、よい香りの和紅茶が人気なのが分かった。


『木がくれて茶摘みも聞くやホトトギス』ー松尾芭蕉の句碑が宮尻
にあるらしい。芭蕉の遠縁にあたる片木藤兵衛宅に行くときに詠ん
だという。山の懐の清涼な空気は、きっとその時代と変わらない。

2025.0928