土曜日に鎖骨を骨折した次男を連れて、かかりつけの先生の居る
宇治へ行く。ついでに私も、こじらせた風邪の後遺症を診てもらう。

「折れた処をチョイと上げて真っ直ぐにしてから、くっつける愉気
をして下さい」と言うと、先生は「野口先生は出来た。弟子も教わ
ることは教わった。けれど・・・」と、提案した治療を避けられた。

「本来の体ではない」とは、ここ20年来私に発せられる言葉だ。贅
肉の付いていないすらりとした体型が、本当のカラダらしい。最後
に仰向けのお腹を人差し指で叩いて「太鼓」と小声でおっしゃった。

一歩外に出ると賑やかだ。生気が甦り晴れ晴れとしたので、遊んで
帰ることにする。患者が一転して観光客だ。宇治川沿いを散歩する。

「ウソだよー」”世界文化遺産 宇治上神社”の看板に次男は笑う。
舟にも乗る。客の波間なのか、私たち二人きりの貸し切りだった。

「平等院にも行く?」「タイコが行きたいならつきあうぜ。」って、
それ私のことか?勝ち誇ったような顔で、勢いまで取り戻している。

抹茶のソフトクリームと団子は、来た限り口にすると相場が決まっ
ている。代金を支払う耳元で次男が囁く。「太鼓が大太鼓になるよ」


”鳳翔館”は、CGで12世紀の平等院を解説している。屋根の鳳凰
は金色、柱は紅殻で中堂は鮮やかな朱、庭は白洲、建物の長押や梁
には螺鈿や鏡がはめ込まれ、極彩色で飛天などが描かれていたと。

「使い古した10円玉の色じゃなくて、キンキラキンだったってわけ
よ。当時見た人たちは、これが極楽浄土と思ったに違いないわね。」

だが今は、田舎でも派手な色の看板が溢れる中、逆に平等院の彩度
の低さが、清澄とした美しさの天上を思わせる。

2004.1108