甲賀の山里にあるお茶室に、月2回通っている。

一勺の水に、釜鳴りの音が止んだ時、庭で声がした。
先生が、にじり口の戸を細く開けられた。
「雉子が、番いで来ていますよ。」

お手前の最中だったので、そのまま続けた。
5年前の私なら、かまわず見に立ったに違いない。

「少し前まで、こんな人気のある所に 来ることは
ありませんでしたのにね。」と、先生がおっしゃる。

そう言えば、秋の夕暮れ、山猿たちが 餌を求めて、
広い田圃のあちこちにいた。

夜道、角の立派な男鹿が、道路沿いにいたこともある。
シンガポールのナイトズーより、よほどドキドキした。
彼の領域に、私が入り込んだのではないかという畏怖からだ。

これらの原因は、第二名神道路工事にあると思われる。

甲賀・甲南・信楽にわたり、大きく 山が削られている。
今も続くこの工事に、私が良かったと思うのは、信楽で
良質の粘土層が発見されたことだけだ。

お稽古が終わって、玄関を出る。

朧月の夜、夜露を含んだ森がある。
春のやわらかな空気は、ほのかな匂いさえあるようだ。
闇の中に浮かび上がる、白い梅の花。砂利道を踏む音。

この帰り道を一人で歩くことが、かけがえのない時間である
私もまた、彼らと同じ生き物だと思うのだ。

2003.0318