大徳寺の境内は、降り出した夕立で急に薄暗くなった。石畳みの隙
間にヒールを挟まないように注意しながら小走りする。境内の細い
路地の奥にある「泉仙」は、模した鉄鉢で出される精進料理の店だ。

その路地をこちらに向かって来る人影を見て、傘を斜めに道を譲る。
すれ違い際、にっこり微笑んで会釈した外国人が、連日の報道で
ジェンキンスさんに見えた。

平屋造りの店の畳に座って濡れた腕を拭いていると、冷たいお抹茶
とわらび餅が運ばれてきた。それから遅い昼食にする。

軒下の、小さな星が集まったような大苔が雨を吸い込んで、吸い込
み切れずに流れ出した雨で、路地の端に水溜まりが出来ている。

折り鶴の箸包みを拡げると「有遍路より無遍路へいたる一休 雨
ふらは降れ 風ふかはふけ」と書かれている。迷の社会より悟りの
世界に至るひとやすみとルビが振ってあった。

雨は勢いを増して、井戸の上の竹すのこに水しぶきが跳ね返ってい
る。雷の鳴り出したなか、笹や楓の葉は一層鮮やかさを増した。

柚子味噌をのせた揚げ麩と木耳の有馬煮などでお酒を飲む。酔いが
まわるにつれ白い革靴のことは諦める。降らば降れって気分になる。

「けれど、新潟や福井は降りすぎやなぁ」「夕方、友人の墓参りに
行くからゆっくりして居れない」と、連れ合いはあくまでも現実的
だ。冬瓜のお吸物は緑の部分が多く、青っぽい味が口に涼しかった。

小止みになり空は明るくなった。傘をさしてもらって歩き出す。
なんだかつまんない。遊びに行ってたのを連れ戻される気分がする。
わらび餅の紙袋を小脇に抱えて、靴が濡れないように足下を見た。

2004.0718