ライトアップされた薬師寺の塔は、夢を見ているかのようだ。

墓のない寺は檀家も無い。だから、前住職高田好胤のお葬式でさえ
「お家の宗派に、ボクらがお布施を出したのです。そのような八百
万の神や仏が共存している日本に対して、排他的宗教は争いが絶え
ません」と僧侶の講話は始まった。
  
薬師寺金堂の復興は、昭和46年に起工された。宮大工の西岡常一が
木は千年もつと言ったけれど、「(そのような)データが無い」と
大学教授に突っぱねられ中央の所はコンクリートになったという。

既に、薬師三尊像の土台のコンクリートには亀裂が入っていた。
  
メソポタミア文明と同じように”日本文明”となる運命では困る。
とおっしゃった若い僧侶に、帰り際「あなたは反対されなかったの
ですか?」と聞いたら「相手は国家ですやん」と苦笑いされた。

これに限らず、愚かな事も素晴らしい事も人間は歴史を刻んでいる。


降り出した走り雨で燻って、見え隠れしている高円山の大文字送り
火に目を凝らしながら、切望していた東大寺の万燈供養会に行く。

広大な敷地に並ぶ燈灯と浮かび上がる大仏様のお顔に、声も出ない。
映画『宇宙戦争』の迫力の比ではない、一大スペクタルだ!視界に
入りきらない圧倒的な大きさと空間に、もう少し浸りたかったな。


亀井勝一郎は『大和古寺風物誌』で、荒廃について”技術の進歩と
いううぬぼれが、古人の精神を忘却しかねない。・・崩壊して行く
ような今の姿をそのままとどめてほしい”と昭和17年に書いている。

だがリニューアルされても、一年で一番の人出の今日、沢山の人が
”伝え難いほんとうの美しさや深さ”を感じたのではないかと思う。

2005.0815