新幹線で東京から来たSさんと、大津のKさんと京都で待ち合わせ。

花見小路の『豆富』で、舞妓さんの口に合わせたお寿司をいただく。
その間に、通り雨が去ったようだ。桜を見ようと八坂神社へ向かう。

専務が高校生の頃、この境内の見せ物小屋で”オオカミ少女が鶏を
食べる”看板に惹かれて入ると、足の指の少ない女性がきものを着
て座っているだけで、鶏小屋の鶏はいつまでも騒がしかったという。

陶芸家の澤さんは若い頃、祇園でお酒を飲んで夜中にひとりで境内
を横切った時、蹴鞠をする4,5人の裃姿の幽霊を見たという。

このふたつの話は10代の私の脳裏に深く刻まれたせいか、八坂さん
は今でも妖しく怖いイメージのままだ。先駆けて咲く2本の満開の
桜が書割の絵に見えてくるのも、花見準備をする人達が幻ではない
かという気がするのも、仕方のないことかもしれない。

Sさんが「主人は控えめな性格だから、ソメイヨシノより山桜・木
蓮より辛夷が好み」と言う。私も和花は八重より一重が断然好きだ。  


雛人形が好きなSさんに合わせて、京都国立博物館へ行く。関西は
御殿飾りと調度品に”おくどさん”が付くのが特徴だ。室町・桃山
時代の小袖や朱漆塗を見ていると、幾度か春雷の音が聴こえた。

だが、外に出る頃には、雨は上がり空は明るくなっていた。”産ま
れた日の天気がついて廻る”という説があるが、三人ともその日は
よほどの晴天だったに違いない。冷えだした初更、高台寺へ向かう。

ここには激しい雨は降らなかったのだろうか。整った白砂とライト
に照らされた枝垂桜に乱れた様子はない。綺麗な”見せ物”でも
哀しい気持ちになる時はある。花びらは一重か、遠くて判らない。

2006.0328