きもの用のハンガーに掛けていた、オレンジ色の博多帯をたたむ。
何の汚れか、粉っぽいものが一箇所に入り込んでいる。

タオルに水を含ませて、トントンと叩く。この晴天なら室内に干す
だけで湿り気はすぐに飛ぶだろう。

娘の頃は、脱いだ後始末を母にしてもらっていた。母もこんなふう
に、愛しんでしまっていたのかなと思う。


今年の夏は、梅雨明けからひどく暑い日が続く。先日の祭の宵宮は、
日中の気温の高さを引きずったまま夜になり、湿度も高かった。

なのに娘は私に、「一緒に浴衣で夜店を見に行こう」と誘うのだ。

サッカー地のコットンのワンピースでさえ汗が出るのに、浴衣だな
んてまっぴらごめんだ。そう思っていたけれど、日頃離れて暮らし
ているのだからと心が動いた。


絹紅梅の浴衣は涼しいけれど、模様が地味だ。白地に紺色の模様の
コーマ地の浴衣は目が詰まっていて、さらに暑い気がする。

娘は、紺地に白と紫色の絞りの浴衣を選んだ。私が若い頃に何度も
着たものだ。これに祖母の若い頃の珊瑚色の半幅帯を締めてやった。

私は、白い大輪の花に芯がオレンジ色に染めてある、藍色の浴衣に
した。明るい藍色が気に入って飽きることがない。そして、オレン
ジ色の博多帯を締めたのだ。


「身八つ口が心もとないな」と、着るたびに思う。浴衣で出掛けた
お祭りや花火の夜が絵日記のように思い出せるのは、こんな気持ち
と共に記憶に刷り込まれるせいだろうか。

過ごした幾夜かを想い辿れるのは、着物の効用かもしれない。

2010.0806