ドライブ日和の月曜日は、すっかり夏の空が広がっていた。兵庫か
ら京都へ抜けた一日の締め括りは、信楽の山の中での夕餉だ。

信楽高原鉄道の線路を横断して、うっそうと繁る森の奥にあるとは
誰も想像しないだろう。この踏み切りは軽自動車以下しか通れない。


予約の電話をいれた時、迎えに来てもらえるものとばかり思ってい
たのに、「駅から歩いて数分の森の散策は楽しいですよ」との答え。

都会の人ほどよく歩き、田舎の人は2,300mでも車に乗るといわれる
はずだ。それにひとりで運営されているから、夕飯の準備に追われ
る時間を奪うわけにはいかない。


しかし、私たちは山の中を歩く気は、さらさら無いのだった。

会社の軽トラックの助手席に紅一点の私が乗り、男性五人は自衛隊
のように荷台に乗って、ペンションを目指した。

途中、雨が降ったあとに自然発生する小川を渡ると、荷台の男性陣
から歓声が上がった。川の水は透きとおっている。細かな砂地の川
幅は日によって変幻自在になるらしい。

軽トラックは片輪が川の深みに入り、もう片方は轍に乗り上げ、引
っ繰り返ったらどうしようかと気をもんだ。ホーチミンから西北100
km、ガタガタ道を通ってタイニンへ行った以来のスリリングさだ。


宿に着いて、高原の風が吹き抜けている戸外でミーティングをする。
暫くして大粒の雨がデッキを濡らし始めたので、中に入った。

台所で紫玉ねぎを薄く切る宿主と、遠くからのお客様であるふたり
の女性と話したり、本棚にある石の図鑑を見たりする。

走り雨が過ぎるとヒグラシの声が聴こえた。皆がハッと顔を上げる。

2012.0711