最初の記憶って、いつ頃のどんなこと?

私は、オムツをしていた赤ちゃんの頃の、ある日の一コマ。

肌に触れる感触が気持ち悪かったのだと思う。泣いて訴えていたら、
母親が足元から現れて、私のオムツを替え始めた。

その手が濡れていたのか、突如襲う不快さ。「ビックリした!冷た
い!ムカつく!」と、すごく憤慨する私。

この記憶が蘇ったのは長男のオムツを替えた時だから、自分が赤ん
坊だった頃から、おおよそ28年経っている。

ビクッとして泣き出した長男をあやしながら、「ごめん。冷たかっ
た?」と謝った時に、あの瞬間の苛立つ気持ちと、薄ぼんやりした
居間の情景を思い出したのだ。


次の記憶は、寝ながら本を見たいが叶わず、悪戦苦闘した時のこと。

絵本を持って、寝転んだ畳の上。色とりどりの絵本の一枚をしっか
り見たいのに、小さな、力のない手では掴みきれなかったのだろう。
両の手からパラパラとページがめくれ、終いには顔に本が落ちた。

その驚き。憤り。やりたいことが出来ない、もどかしい思い。


夕べ、志賀直哉の短編小説を読んでいた時のことだ。

「祖母は皮の信玄袋の口をゆるめて、ハンカチだの煙草入れだの千
金丹だのをそれへ詰めていた」というくだりで思い出した景色は、
何歳のことになるのか。袋の口から見えたのは、布や薬袋だった。

そして、曾祖母あたりの、香と薬と着物や鬢付け油などの混ざった
匂いまで立ち上った気がした。

不意に記憶の抽斗が開くのなら、このような穏やかな事が良いな。

2013.0619