ぱちぱちと薪のはぜる音がする。
黒い鉄製の薪ストーブは、漆喰の白い壁に映えて鎮座している。

柔らかな暖かさの中、アップライト・ピアノの自動演奏で、サティ
が流れている。時折、カタカタとペダルの戻る音も聞こえる。

春は、少し開けたドアから入る風に揺られて、ウィンドチャイムが
鳴る。その自然任せの優しい音色に耳をそばだてる。

満杯の水で満たされたガラス瓶の中。緑色の藻から、鰭の豪奢な赤
い金魚が見え隠れする。鰭の動きを目で追う。これは金魚ではなく、
濁った水でも棲む『ベタ』という魚らしい。

珍しい紅茶を出してくれる。あぁ、この香りはハワイで漂っていた
なぁと言いながら飲む。「ココナッツです」の言葉に、紅茶は葉か
らという固定観念を覆されて驚く。いつぞやは栗やバニラ味だった。

置いている本も珍しい。『ことりっぷ』は旅行の本で、エンボス加
工みたいな表紙からして凝っている。ジャンルに関わらず、いろい
ろな分野の専門誌を垣間見るのは面白い。

西日が少し翳ると、ステンドグラスから光が差し込み、床を射す。


「草木染めが合ってる」らしく、髪が艶を帯びるのでたまに染める。

ブローはしないうえ、サザエさんのようになったらイヤだから、十
年以上パーマをかけていない。「今は進化した液があります」と言
うので、気分転換にパーマをかけてみた。

この美容室に行きだして一年になる。今までと違って、美容室から
帰っても家族の誰もが何も言わない。カットはともかく、パーマを
かけても分からない髪型とは、した甲斐があるんだろうか。

2014.1001