信楽から貴生川へ降りる途中、真正面に明るく大きな丸い月が出た。

今夜は中秋の名月だ。みとれながら家に帰ると、母と夫が食事を待
っていてくれた。秋刀魚を焼く前に、三人で家の前の小径を10mほ
どを歩いて、西の空に煌々と輝く月を見上げた。

『小3の一学期、理科だけ悪かったから、二学期の"月の満ち欠け"
をみっちり教えた。理科は上がったけれど他の教科が二、三落ちた。
この子の頭の容量は決まっているのかとがっかりした』と言う幾度
となく聞かされた私の成績の話を、母は再び夫に披露した。


私が3,4歳の頃、母が仕事をしていたので母の実家に預けられた。
祖母と、近くに住む祖祖母が遊びに来て三人で一日を過ごすのだ。

祖母はたいてい刺繍や縫い物をしていて、祖祖母はクシャっとした
紙に何か(短歌)を書き込んでいた。とにかく、ぼそぼそ話す物静
かで地味な老婆ふたりが相手だ。一日がとても永かった。

夕方になると、もう我が家に明かりが灯ったのではとガラスに額を
あてて何度も見た。そして母が迎えに来ると、この小径を帰った。

すでに私たち母娘は、当時の祖母たちより歳上になっている。


翌日、福山雅治結婚の速報に「日本中で、今から仕事に手が付かな
くなる人が続出しますよ」と業務の矢橋さんが予言した。ニュース
の扱いは、スーパームーンと呼ばれる満月と同じくらいだった。

そして今夜。何度見渡しても月の姿が無い。星はまたたいているか
ら曇り空ではない。いったいどうしたのだろう。

母が「月の出は昨日より半時間ほど遅いし、もっと北に寄って出る
よ」と言った。一晩でそんなに違うものか?私は心底驚いている。

2015.0929