私が習う茶道の、月一度の奥稽古はきものを着ていくことになって
いる。もちろん先生も、きもので迎えてくださる。

ところが、普通稽古の日に「コロナで自粛の最中なので、次の奥稽
古は洋服でいいですよ」とおっしゃったのだ。数ヶ月ぶりの奥稽古
なのに。皆は頷いていたが、私は釈然としない気持ちが残った。

淡谷のり子は戦時中、真っ赤なマニキュアとドレスで通し、モンペ
を履かなかった。自分のスタイルとご時世に何の関係があるのか。

「淡谷のり子は立派だわ」と、この逸話を稽古へ行くクルマで同乗
の3人に披露した。「私ひとりでも、今日はきものを着ようと思っ
てたんだ。だって自粛を強要するような雰囲気ってオカシクない? 
まぁー、結局は面倒だから服にしたんだけど」


久しぶりの奥稽古だったので、私は『行の行台子』を2度練習した。
唐物茶入れは球体の陶器だから滑りやすい。一呼吸して指に神経を
集中させる。この非日常の時間を愉しむ。


雑談は肩こりが話題だった。確か妹は最近、木槌か金づちで叩かれ
る治療を受けたはず。詳しく聞くと「身体の歪みを治すためで、金
づちは当て木が使われるの。たくさん患者がいても一人2~3分で終
わるから早いよ。調子?2回受けてまぁまぁイイ感じ」と言った。

う~ん、私は身体を木槌・金づちで叩かれることに抵抗があるなぁ。


帰り路、クルマの窓越しに、公道に立つ銀髪のショートヘアに殿茶
色のきものの女性を見かけた。あぁでなくちゃね。

別れ際、「それでは皆さん、来月の奥稽古はきもので」と年配の
Tさんがおっしゃった。

2020.0928