朝夕、涼しくなったとはいえ、日中の気温はまだ真夏並みだ。

もうすぐ中秋の名月。月とウサギの紋入りの単衣の紬は、時節がら
ぴったりのきものなのに、この暑さでは風情が殺がれる。

クリーニング屋の奥さんは、仕上がった絹のきものを永く置いては
迷惑だろうに、炎天下にクルマで持ち帰ることを嫌がる。きものが
痛むので涼しくなってからで結構ですよとおっしゃるほどだ。

そうこう話すうちに、先生宅に到着する。タムラさんがいつもの位
置にクルマを停めようとしたが、工事の車があるので、少し手前で
下りるよう私たちに言われた。外の強い陽射しに、俯き加減になる。

稽古道具・お弁当・スーパーでの買い物に加え、タムラさんのカバ
ンも一つ持ち階段を上がる。私の後ろにショウジさん、妹と続いた。
十二、三段の頂上まで来て柵の錠を外しかけたところで、クラクシ
ョンが聞こえた。タムラさんにしては荒い事をされるものだと思う。

「お姉ちゃん!」と妹の声。振り返ると、「先生の家じゃない」と
誰かが言った。タムラさんは私たちに知らせようとしたのだった。

同じ様なコンクリートの階段で、柵もインターホンも同じ位置の、
隣の宅だった。先生宅に着いても、妹は肩をふるわせて笑っている。

何年通っているのか。階段の植物に特徴がある。めいめい呟いてい
ればいい。私だけの責任じゃないわ。二人ともついて来たくせに。
それにしても、習性ってコワイなぁ。


気を取り直して『大円の真』の稽古をする。茶杓を古帛紗で清める
ので、柔らかな古帛紗を持ってくればよかったと思う。出たとこ勝
負でなく、今後は予習と準備の時間をとる落ち着いた生活をしよう。

2023.0928