「干し柿を作ってみないか?」とケンスケさんに声をかけられた。

十年前に隠居して山と畑を買い、農業を趣味としていたケンスケさ
んは、再び陶芸家兼店主に戻ったので、前より忙しい生活を強いら
れている。山に植えた多品種の果樹も採らねばならない。

やったことないけれど、作ってみようかなぁ。冬の風物詩でもある
し、バニラアイスやヨーグルトと合わせて冬のデザートにもなる。

待ち合わせの駐車場へ行くと、数個のコンテナボックスが積んであ
った。熟した渋柿を一個手に持って出てきたケンスケさんは、薄い
皮を剥きながら私の口元に近づけた。一口、食べてみる。甘い!と
同時に幼い頃の祖母宅の記憶が蘇った。二口、三口と続ける。

「ワシ、毎日イヌに喰わせてるねん」って。今、私が食べてるのに
言うかなぁ。「ワシも毎日喰ってるぞ」。皮を剥いて干すのは面倒
だけれど、熟した柿は手間いらずで充分甘くて美味しいのだと言う。


1ケースをクルマに積んでもらう。ケンスケさんは「ちょっと寄っ
て行け」と作業場に招き入れ、一個の抹茶碗を私にくれた。

茶会で名前を出してもいいかと問えば、「ダメだ」の返事。形がイ
マイチだけど、色味が良いので捨てがたいといったところだものね。
替茶碗にしよう。明るい緋色に覆われ、小春日和を連想する茶碗だ。


柿は1ケースといえど数十個はあった。友だちや妹、近所の家に十
数個づつ配っても、手元に同じほど残った。スーパー・ジョイに寄
った妹から、店内の『干し柿作り方』を写したLINEが入る。読む
間に、作る意欲が無くなる。私も十年前より忙しくなっているもの。

帰宅すると、軒先に柿が吊るしてあった。母が作ったようだ。

2023.1128