今年の甲賀映画祭の広告を見て、『呉清源』を観ることに決めた。
撮影地が近江八幡だったので、他県に先駆けてプレミア上映される。


27歳の時、私は大津市の碁会所に入会した。きっかけは忘れた。間
もなく妊娠・出産したので足は遠のいたが、碁が面白くて仕方ない。
  
それを知った専務の幼友達の勝ちゃんが、毎週家に来て相手をして
くれることになる。だが彼は容赦無く、赤児の手を捻るような勝ち
方をするので、いつも悔しい思いをした。碁を辞めたきっかけは覚
えている。長男の子育てに疲労困憊の日々になったからだ。
  

監督は中国の田壮壮。主演男優は台湾のチャン・チェン。8歳で天才
と呼ばれ、14歳で来日。後ろ盾の西園寺公望を亡くした後、日中戦
争の間も打ち続ける彼には、心の拠りどころ=信仰が不可欠だった。

呉の幼い頃の場面は、中国文化を誇るようなカメラワークだ。最近
の報道ですっかり翳んでしまった、素晴らしい遺産を思い出す。

惜しむらくは、囲碁を知らない人に、どれだけスゴい人かよく分か
らなかった点だ。少し囓った私でさえ”本因坊は強い”程度である。

川端康成や谷崎潤一郎、坂口安吾らから風貌と知性を絶賛された事。
未だ読売ジャイアンツがない時、読売新聞の発行部数を飛躍的に伸
ばしたのは、呉の対局ニュースだった事など。

とにかく、交通事故に遭うまで、卓越した成績を挙げ続けるのだ。

また、四書五経・東洋哲学を究めたと記される人なのに、怪しげな
宗教に身をおいた時だけをクローズアップしたのも残念だ。

けれど『呉清源』を予習してから観ると、若い頃にソックリという
チャン・チェンから彼の貴人さと、映像の美しさを楽しめると思う。

2007.1023