成果も多いがトラブルも多かった、今回のヴェトナム出張。

思わぬプレゼントは、通訳のChauさんがサイゴン川沿いのセカンド
ハウスに招待してくれたことだ。お兄さんが庭のマンゴスチンやマ
ンゴー、チョムチョムなどをご馳走してくださった。

満々とした水量のサイゴン川の上を吹き抜ける風は、意外に涼しい。


夜中の出発だった帰りの便は、飛行機の整備不良によりホーチミン
での1泊追加を余儀なくされた。

事が起こると人間性が浮き彫りになる。非はそちらにあると居丈高
にものを言う人。相部屋を要請されて抗議し続ける人。我先にと殺
到してホテルの受付が混雑する中、宿泊カードを配る女性がいた。

このような人は、暗闇を照らす灯に見える。

長女の高校時代の級友がCAとして乗り合わせていたので、いち早
く情報を知らせてくれた。彼女の笑顔も不安を吹き飛ばす。


結局11時間半の遅延となったため、出張中に亡くなった友人の葬儀
への参列は諦めざるを得なかった。ただぼんやりと雲海を見る帰路。


そんなこんなで億劫になったお茶の先生との約束の夜を迎えた。重
い腰を上げて、数ヶ月ぶりに釜の前に座る。稽古を止めていたのだ。

「忙しい時や大変な時期こそ、精神を落ち着かせるためにするもの
なんですよ」と見透かしたように先生はおっしゃった。

久しぶりにお茶を点てると、揺れたり放散していたものが、ピタリ
と元の位置に納まったような気がした。自分を取り戻した感じ。


”笹の葉に蛍”の絵柄の茶碗でお薄をいただく。三度まわして口に
運ぶ間に、夜露に濡れた川縁で飛び交う蛍の幻想を見た。

2009.0621