長女を産んだ夏、25歳の私は友人の結婚式に出席した翌日から腰痛
に悩まされた。病院の処方はアスピリンだ。これで治るわけがない。

妊娠中に知り合った年上の女性がくれた1冊の本を、本棚から探す。
古書のような野口晴哉の整体の本だ。最後の頁に印刷された電話番
号に掛けると、穏やかな声の女性は整体協会本部の連絡先を教えて
くれた。家から一番近い協会は宇治市にあった。

いきさつを話すと、堤先生は野口晴哉の三男と同期で最後の弟子で
あり、電話口の方は晴哉の奥様の昭子さんということが分かった。

産後の骨盤が不安定な状態なのに、ハイヒールで長時間歩いたのが
原因だった。左右の骨盤を揃えてもらった。痛みがウソのように消
えて、バス停からすたすた歩いて帰れたのは驚きだった。

それから、妊娠、出産、子どものアトピーや骨折など、事あるごと
に通ったが、母を診てもらうために来たのは初めてだ。

宇治川に面した丘に建つ協会は、門をくぐると、視界はピンク色の
満開の石楠花とドウダンツツジの小さな白い花でいっぱいになる。

久しぶりにお会いした先生に、最初の想い出話をすると「この家は
関西の財界人の持ち物だった屋敷で、昭子さんが紹介してくれたん
だよ」とおっしゃった。そして「来年で開業40年になるんだ」と。

変わらない佇まい。窓からの景色も、畳の続き間も。晴哉先生がお
好きだったチェロの楽曲が今も流れている。

人の出逢いと縁の不思議さ。奇しくも、私に野口晴哉を教えてくれ
た年上の女性から、引っ越しのお知らせが届いた。新しい住所は、
宇治市とあった。

2021.0418