知的障碍者のS君は、若い頃に親から中古住宅を購入してもらい、
以来自炊している。掃除・ゴミ当番はもちろん、近所づきあいもこ
なす。52歳でウチを辞めるまで、中元と歳暮を会社宛てに贈ってく
れていた。そんなことはしなくていいよと言ってもきかなかった。


私の同期のK君は18歳で入社した。会社経営のお父さんの口真似で
育った彼は、入社間もない頃、京阪バスの運転手さんに「キミ、○
〇で降ろしてくれたまえ」と言ってひどく叱られたことがあった。

勤続30年。食事は寮母さん任せだが、洗濯・掃除は完璧で勤勉だ。

10年前、K君は自転車を欲しがった。保護関係の方は、老後のため
の貯金優先で許可されない。彼の憤懣に同情して「賞与も障碍者年
金も貯金し、小遣いはCDと菓子。彼にも働く楽しみがあるべきで
す。あなた方もクルマは買うでしょう?」と力説したところ、理解
を得てK君は新車を買えた。今も毎日の通勤に使っている。

それから、たまに話しに来る。両親が亡くなり親族は姉だけになっ
た時は、正月に帰る家がないと言う。「姉弟といえど疎遠になるの
は健常者でもよくあること。ひとりを愉しむ。旅行に行けば?」。
結婚できるかと聞いた時は「私の妹のご近所は50歳代の独身男がバ
ス一台分いる。女性も同様、今や結婚はゴールではない」と答えた。

人生の節目の悩みは、障碍者も健常者もさして変わらないと思う。


「Sが、加陶の奥さんによくしてもらったと他所で言ってる」と工
場長が聞いてきた。私は嬉しくて感激した。けど、身に覚えがない。
これも中元・歳暮と同様の社交辞令か。三つ子の魂百まで、一生つ
つがなく生きていけるよう躾けた、S君とK君の親御さんはすごい。

2022.0218