『舟を編む』の文字を新聞で見たときから、その題名に惹かれてい
た。偶然、その映画を観る。あらすじを知らなかったので楽しめた。

辞書を作るのは地味で根気の要る仕事だ。けれど成し遂げた時には、
その弛まぬ精神力がカッコ良く思える。編纂の作業も初めて知った。
毎日、何年も携わっていれば、言葉に敏感になるだろうな。

「今さ、ヤバイを肯定的に使うんだよ。"ヤバイ、美味しい"って」
の会話にクスっと笑う。何年か前、私も聞いて驚いたから。


高校3年生の時、教育実習に来た立命館大学の学生が「言葉の変遷
は当然だ。時代と共に変化していく」と言った。私は旧仮名遣いは、
その時代の空気感が伝わるから大事にしたほうがいいと思っていた。

「キミ、そういう意見の〇〇教授のゼミ受けてるの?なわけないよ
ね。平安時代の言葉を使う?使わないだろ?今、生きている言葉を
どんどん使っていくのだよ。そうして時代は変わっていくのさ」。
勢いのある実習生の意見に、なるほどと感心したまま歳月は流れた。


明治生まれの祖父母の片鱗が私のどこかに残っているとして、それ
を頼りに時代を手繰り寄せて、本を読むのは愉しい。昔を懐かしむ
人らもそうして、時代はゆっくりと変わってきたのだろう。

残る言葉があるように消えていく言葉がある。流行り言葉を嫌う人、
使う人。様々な形容詞を使う人、否。私は口にしてみて、そぐわな
いと使わない。ということは、自分の尺度で取捨選択して話したり
書いたりしている。それが個性ではないかと思うようになった。

最近はネットで、市井の人のハッとする文章との出逢いが愉しい。
素敵な人がいっぱい生きてるんだなと思えるから。

2022.1218